ヤノネカイガラムシと天敵2種の個体群動態と進化


 ミカンを加害するヤノネカイガラムシを防除するため、1980年に寄生バチ2種が中国から導入されました。カイガラムシは激減し、年によって寄生バチ2種が交互に寄生率を上げています。なぜ2種の寄生率はこのように交互に変動するのでしょうか? 

 


 これまでは、害虫と天敵の生物的要因に主眼がおかれ、気象要因や植物の影響はあまり研究されてこなかったので、本研究ではこれらに注目しました


長崎県口之津のミカン園におけるヤノネカイガラムシと2種の
寄生バチの個体群動態


 15年間のデータから、寄生バチ2種間が互いに競争関係にあり、さらに3月の低温や8月の高温によって寄生率が増加していることがわかりました。カイガラムシの方は、夏(8月)の降水と、1〜3月の低温によって増加していました。ミカンは降水によって土壌中窒素を吸収し、さらに、あまり落葉しなくなるため、葉上のカイガラムシもこの恩恵をこうむったと言えます。



 冬の気温が上昇すると、2種の寄生率は低下すると予測できます。しかし、夏にあまり雨が降らず気温が上昇すると、カイガラムシは減少し、寄生バチによる寄生率は上昇します。つまり、冬と夏のどちらの気温が地球温暖化によって上昇するかに、カイガラムシによるミカンの被害の増減がかかっているのです。


 寄生率から気温で予測した値を差し引いても、さらに減少傾向にあることがわかりました。カイガラムシは、他のカイガラムシの下にもぐり込み寄生を回避することが知られています。こうした行動が進化したため、寄生率が低下していると考えられます。


ポスター担当

津田 みどり (Midori TUDA)(農学研究院 天敵昆虫学分野・助手)


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