ミドリシジミ族の系統

- DNA の塩基配列から近縁な種間の系統関係を探る -


 近年、生物の系統関係を明らかにするための手段として、DNA の塩基配列などを用いた分子系統学的手法が注目されています。一般的にミトコンドリア DNA は核 DNA よりも分子進化速度が速く、動物の種間や地域集団間の系統解析にしばしば用いられます。


オオミドリシジミ属の COI および COII 遺伝子系統樹



 シジミチョウ科ミドリシジミ族の蝶類の1群であるオオミドリシジミ属 Favonius は9種で構成され、日本には7種が分布しています。成虫は、年1回、夏に現れ、雄は種固有の活動時間になると、翅をきらめかせて飛翔します。幼虫は主として落葉性のブナ科コナラ属の葉を食べて成長しますが、その好みは種によって様々です。オオミドリシジミ属の分布は東アジアの落葉性コナラ属の分布とほぼ一致しています。


オオミドリシジミ属4種の系統と分布

 ミトコンドリア DNA のチトクロム酸化酵素サブユニット (COI) および (COII) 遺伝子の塩基配列から計算された遺伝的距離をもとに、近隣結合法という手法によってオオミドリシジミ属の系統関係を推定しました。その結果、この属の中には(1)ジョウザン、(2)ウラジロ、(3)クロ+オオ+リーチオオ、(4)オナガ+エゾ+ハヤシ+ヒロオビからなる4つの主要な群が認められました。ハヤシとヒロオビについては、種の系統樹と遺伝子の系統樹の不一致が起こっています。



 (4)群のオナガ、エゾ、ハヤシ、ヒロオビの4種は、成虫の雌雄交尾器や幼虫の形態に基づいても近縁であると考えられます。これらの蝶たちは、大陸から日本列島への侵入を繰り返すことが1つの要因となって、分化しているように見受けられます。


ウラジロミドリシジミ雄

オナガミドリシジミ
終齢幼虫


ポスター担当

小田切 顕一 (Keiichi ODAGIRI)(比較社会文化学府 生物多様性分野・院生)

三枝 豊平 (Toyohei SAIGUSA)(九州大学名誉教授)

小池 裕子 (Hiroko KOIKE)(比較社会文化研究院 生物多様性分野・教授)


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