上昇するヒマラヤ、崩壊するヒマラヤ
Rising Himalayas and Collapsing Himalayas

インド亜大陸とアジア大陸の衝突の結果、世界一高い山脈ヒマラヤと世界最大の高原チベット高原が誕生した。5000万年前以降、ヒマラヤは上昇を続ける一方、高くなり過ぎて自重による構造的崩壊を続け、大量の風化物質を供給している。急激な化学的風化作用の結果、大気中のCO2の除去が促進され、地球全体が寒冷化し第四紀の氷河時代が生まれたという仮説が提唱されている。私たちの研究グループは、その仮説の検証と衝突型造山帯の進化モデルの構築を目指し研究を行っている。


かつて南半球にあったインド大陸の大陸棚上に棲息していた、4億6000万年前の海生生物の化石を含む地層は、大陸衝突によって1万メートル近く持ち上げられた。1998年5月、日中共同チョモランマ峰科学調査隊(隊長、九州大学酒井治孝教授)によって持ち帰られたエベレスト頂上の石灰岩からは、三葉虫や介形虫の化石が発見された。


エベレスト山頂のチョモランマ石灰岩から産出した海ユリ破片の断面。中央右寄りの楕円形の破片が約1mm。約4.6億年前のオルドビス紀。


エベレスト山頂のチョモランマ石灰岩産出の三葉虫の横断面(横幅約1mm)。黒い楕円体は海生生物の糞の化石。

エベレスト南西壁を構成するチョモランマ層(Q)、イエローバンド(Y)、ノースコル層(N)。チョモランマ層とイエローバンドの境界は、低角正断層チョモランマデタッチメントで画されている。チョモランマ層は非変成のテーチス堆積物の最下部を、イエローバンドはヒマラヤの変成帯の最上部を成す。ノースコル層はおもに黒雲母片岩からなる。チョモランマ層もイエローバンドも、自重に起因する共役断層系によって切られていることに注意。


ヒマラヤ山脈の核心部をなす変成岩は、約3200万年前にバロビアン型変成作用のピークを迎えた。その後2500~1700万年前に高温低圧型の変成作用を被り、地殻物質が融解して花崗岩が形成され、急激に上昇を開始した。変成帯の下底面を限る断層、Main Central Thrust に沿って変成岩は上昇し、剪断帯中のガーネットは回転し雪だるま構造を形成した。地表に到達した変成岩は、100~150kmにわたって南側に(ヒマラヤ山脈の南縁まで)押し被さり、変成岩ナップとなった。


ヒマラヤ変成帯の温度ー圧力変遷。最高温度約700℃、最高圧力12kbar。(1) 初期段階の温度-圧力条件、(2) 変成作用のピーク時の温度-圧力条件、(3) 後期段階の温度-圧力条件。


ザクロ石ー黒雲母地質温度計にもとづくModi Khola断面に沿った熱構造。ハイヒマラヤ変成帯と接触するところでレッサーヒマラヤ堆積物が局所的に温度上昇していることに注目(Kaneko,1997)。

剪断帯の中で回転しながら成長した雪だるま構造を示すザクロ石


マイロナイト質眼球片麻岩。ガーネシュヒマラヤのSTD (South Tibetan Detachment) 直下。よく発達したS-Cマイロナイト構造とカリ長石のポーフィロクラストは、これらの構造が北方への正断層運動によって形成されたことを示す。

パネル作成者: 酒井治孝(比較社会文化研究院 環境変動部門 地球変動講座)

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