火山噴火と気候変動(2)
The Impact of Volcanic Eruption on Climate Variation (II)


ピナツボ噴火と北半球の夏の気温低下には関係がありそうだということは、視覚的には前頁の図でわかりますが、このことを客観的に評価せねばなりません。時系列データの解析は、従来から行われている相関解析と、中野裕治先生 (1992)が考案した因果律解析法があります。今回はこの2つの解析法を用いてピナツボ起源の硫酸エアロソル密度と緯度帯で平均した気温偏差の関係を調べました。結果を上の表に示します。相関解析によると、3つの緯度帯において高い負相関が見られます。興味深いのは、緯度が高くなるほど高い相関が現れる時間の遅れが大きくなっていることです。一方、因果律解析によると、低緯度(20N〜30N)ではエアロソルの影響はなく中・高緯度では強い影響が見られます(因果値のパーセンテージが90%以上だと因果関係があり、95%以上だと強い因果関係があるとされています)。

ピナツボ噴火の日本の気象への影響


1993年は全球的な異常気象年でした。北米大陸では6〜7月の豪雨によってミシシッピー川が大氾濫を起こし、セントルイスが水浸しになりました。この規模の大洪水は150年に1度、また一説によっては500年に1度の異常気象だと言われています。日本では東北・北海道が冷夏・大凶作に見舞われ、特に米作は壊滅的な被害を受けました。また、九州中南部、特に鹿児島では記録的な豪雨に見舞われ、江戸時代に建築された由緒ある石橋(武之橋、西田橋)が流失しました。年降水量は4022.0mmに達し、これまでの記録を大幅に更新しました。月別の降水量を見る(上図)と、6月から9月の4ヶ月にわたって月降水量が平年値を大きく上回っていますが、他の月は平年並です。これは、火山性エアロソルの日傘効果のためユーラシア大陸の気温が平年ほど上昇しなかったことと、この年に起こったエルニーニョのために、太平洋高気圧が平年並に発達できず、梅雨前線が4ヶ月以上の長期間にわたって日本の南岸に停滞したために起こった現象だと考えられます。


鹿児島におけるこれまでの年降水量の1位から6位までの記録を上の表に示します。第2位の記録は1905年の3550.6mmですが、その年の3年前、1902年には中米のペレー、スーフリエール、サンタマリアの3火山が連続して噴火し、その規模は火山噴煙指数の合計が1000に達する大噴火であったことは注目に値します。また、第6位までの記録のうち4例までがエルニーニョ年に起こっています。

パネル作成者: 守田 治(理学研究院地球惑星科学部門)

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