環境ホルモンの簡易迅速検出

 食品中に含まれる内分泌攪乱物質(環境ホルモン)や残留農薬等の毒物及び食品包装容器から溶出する環境ホルモンの簡易迅速検出と同定技術の開発を行う.
化学物質に対する受容特性の異なる複数の脂質膜を用いたマルチチャネル味覚センサや表面電位制御型電気化学測定(表面分極制御法)と抗原抗体反応を利用したアフィニティーセンサを組み合わせて,広域選択(広くあまねく化学物質を検出)かつ高選択的に環境ホルモンを検出する計測システムの開発を行った.
 まず環境ホルモンや残留農薬と疑わしき物質を,広域選択性を有するセンサ(味覚センサ,表面分極制御型センサ)で識別・分類し(スクリーニング),その後,特定の化学物質(環境ホルモン,農薬)に選択的に応答するアフィニティーセンサで,環境ホルモン,残留農薬であるか否かを判定する.
 味覚センサは,味認識装置SA402Bとして,(株)インテリジェントセンサーテクノロジーから販売されており,食品メーカー,医薬品メーカー,公設の試験場・研究所,大学等で使われている.




表面分極制御法
 

 表面分極制御法とは,電極(白金)の電位をコントロールすることで,電極表面の電荷状態を正,負そして中性と変化させ,それぞれの分極状態において電極表面と化学物質との相互作用をインピーダンス(電気抵抗,キャパシタンス)の変化で検出するという九州大学オリジナルの電気化学的測定方法である.化学反応に伴う電流が電極表面で生じないため,高感度な計測が行える.横軸を電極電位,縦軸を抵抗変化にとることで,化学構造の似通った物質に対して特徴的応答プロファイルを得ることができ,化学物質の大分類(rough classification)を可能としている.


 本方法で,味や匂いの物質の分類も可能である.匂いを,その化学物質のもつ構造で大まかに分類するという,従来の高い選択性をもつセンサとも違うメカニズムを有しており,今後,食品や化粧品業界,防災部門での普及も期待される.
超高感度爆薬検出センサ
 抗原抗体反応を利用したアフィニティーセンサで爆薬物質の超高感度検知が可能である.地中に埋められた地雷からはごく微量の爆薬分子(TNT,DNT)が地表に漏れ出す.訓練された犬はその微量の爆薬分子を検出する.そこで,犬を凌駕する超高感度センサの開発を行った.Electronic dog noseの創製である.
 SPRはSurface Plasmon Resonance (表面プラズモン共鳴)のことであり,界面付近のごくわずかな屈折率変化を高感度で反射光の変化で検出することができる.抗原抗体反応では,抗体が抗原を選択的に受容する.これら抗原(TNT,DNT)を受容する抗体(タンパク質)を作り,SPR素子と組み合わせることで,爆薬を超高感度で認識するセンサを構築した.本研究は科学技術振興機構CRESTのプロジェクトの一環として走っている.
SPR(表面プラズモン共鳴)の原理
地雷探知センサイメージ
現在,TNTやDNTを液体中で数ppt (10-12),気体中に直すとサブpptレベル,で検出できるレベルまで来ており,すでに犬を凌駕している.この検出レベルは,例えてみれば,1兆人(1012)の中から1人を見つけ出すことに相当する.地球上の人口が約60億であるから,そのうちの1人を極めて容易に探せることになる.
 あと数年後には犬に代わり,九州大学発のelectronic dog noseが世界で活躍する日が来るであろう.
研究課題:味覚センサとアフィニティセンサを用いた環境ホルモンの簡易・迅速・高感度計測システムの開発
研究組織:システム情報科学研究院、生物資源環境科学研究院、産学連携センター・工学研究院・総合理工学研究院
審査部門:理工科学 採択年度:H12 種目:B 代表者:都甲 潔(システム情報科学研究院 電子デバイス工学部門 教授)