ツバキの園芸品種の中でも、ひときわ小さく、可憐で半開・一重の花を咲かせる「侘助」ツバキは、日本人独特の「侘 」「寂」の精神世界における美的感覚を象徴する花です。古くから受け継がれてきた侘助ツバキの仲間は、日本各地の寺社や旧家に保存されていることが多く、それは、いにしえの人々が侘助ツバキをこよなく愛し、大切に守ってきたことの証しです。

侘助ツバキ「有楽」

織田信長の弟で、茶人の織田有楽斎長益にちなんでその名がつけられたとされている「有楽」は、侘助ツバキ品種の中でもとても美しく、薄桃色の花がひときわ目立ちます。


西日本の各地に有楽の古木が点在しています。その中で、宮崎県西都市の山深い小さな集落に、日本一の幹周りの個体を含む有楽が三個体も保存されているのは興味深いことです。どうしてそんな場所に?いったい誰が?本当に他の地域の有楽と同じものなのでしょうか?

日本一の大きさといわれる樅木尾有楽。幹周りは、なんと2.43mもあります。ツバキもここまで大きくなるとは驚きです。


残念なことに、この集落にあった幹周り2.02mの大木が枯れてしまいました。パネルの前の輪切り標本はその古木から採取したものです。この標本より、樹齢が少なくとも176年、つまりその樹が江戸時代(文政)より生き長らえてきたことが分かりました。

古くから接ぎ木や挿し木のわざを用いて増殖され、各地に広められてきた美しい侘助ツバキを、地域の人々が大切に守り育ててきたことが感じられます。


パネル作成者: 比良松 道一(農学研究院植物資源科学部門)