■今日の渡来説■

 渡来人問題については、人類、考古、民俗、言語など広範な分野に渡る諸研究が、現在もなお活発に続けられている。特に近年は、広く東アジアの現代人を対象とした遺伝学や生化学、あるいはウイルス学など新分野の研究が活発化し、日本人と大陸集団との遺伝的なつながりが次々と明らかにされている。渡来人の源郷を探る古人骨の海外調査もアジア各地で実施され、最近では、その古人骨から遺伝子を抽出して類縁関係を探る研究も開始された。


 そうした近年の諸研究から様々な渡来モデルが提唱されているが、一般的には埴原和郎の「二重構造モデル」が良く知られていよう。この説は「もともと日本列島にはアジア南部に由来する縄文人が広く住んでいたが、弥生時代になるとそこに、かつては中国東北部にいたツングース系の人々が朝鮮半島経由で流入した。その結果、彼らの影響の及ばなかった日本の南北両端の琉球人と北海道アイヌには、共に縄文人的な特徴が残った」、という考えである。


 埴原はまた、弥生から古墳時代にかけて起こった急激な人口増加は、一般の農耕社会の人口増加率(年率0.1〜0.2%)では説明できず、この間、100万人規模の渡来人の流入があったはずだ、とする大量渡来説も提唱している。
 こうした考えにはしかし様々な反論も寄せられ、現在もなお論争が続いている。


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